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第10回  「太平洋」と「大西洋」

今回は,社会科について,小さな疑問に答えてみます。

 疑問1 「太平洋」と「大西洋」って,何で「たい」の漢字が違うの?


「太平洋」を「大平洋」と書くと×だし,「大西洋」を「太西洋」と書いてももちろん×  漢字が似ているだけに,テストでは注意が必要になるところですね。そこで,「太平洋」と「大西洋」について,それぞれの語源を調べてみました。

  • 太平洋……初めて世界一周を行ったマゼラン(マゼランは途中で戦死して,部下が世界一周を達成した)が,1521年にこの海を横断したときに,海が静かだったことから,「静かな海(スペイン語でEl Mar Pacifico,英語でPacific Ocean)」と名づけたのがはじまり。日本語でPacificにあたる言葉は「泰平(たいへい…世の中が穏やかなこと)」だが,「泰」の略字の「太」が使われて,「太平洋」と書かれるようになった。
  • 大西洋……英語ではAtlantic Oceanだが,Atlanticを訳して「大西」としたわけではない。西にある大きな海なので,「大西洋」と名づけたという説がある(そのままですね)。また,中国では昔,ヨーロッパのことを大西洋と呼んでいたのだが,日本ではこれをヨーロッパが面する海の名前に使ってしまったという説もある。

「太(泰)」は「やすらか」,「大」は「大きい」で,似ていても意味が違うわけです。それにしても,マゼランが横断していたときに海が荒れていたら,「太平洋」という言葉は生まれなかったかもしれませんね。


 疑問2 歴史の本で,「大阪」が「大坂」になっています。これって間違い?

現在の大阪市は,昔は大坂または小坂と書いて,「おさか」と呼ばれていたようです。江戸時代頃にはおもに「大坂」と書かれるようになりました。「大阪」という字が定着したのは明治時代以降です。そのため,くわしい歴史の本では,江戸時代については「大坂」,明治時代以降については「大阪」と使い分けているものが多いようです。質問の本が江戸時代の歴史に関するものであれば,「大坂」は間違いではありません。

江戸時代と明治時代で名前が変わった都市としては,東京(江戸)も重要です。
 (江戸時代) (明治時代)
   江戸  →  東京
   大坂  →  大阪
中学校までの社会科の勉強では,江戸と東京は区別しますが,大阪については,ふつう江戸時代も「大阪」としています。次の質問の答えを考えてみましょう。

  1. 江戸時代の三都の1つで,「将軍のおひざもと」と呼ばれたのはどこか。
  2. 江戸時代の三都の1つで,「天下の台所」と呼ばれたのはどこか。

1は「江戸」が正解で,「東京」と答えると×になります。2は「大阪」で正解です。(「大坂」でももちろん正しいのですが,学校のテストでは「大阪」と書く方が確実です。 )


 疑問3 「イギリス」と「イングランド」の違いは?


日本でも人気の高いベッカム選手は,2002年のサッカーワールドカップで,イングランド代表として活躍しました。あのときのベッカム選手はイングランド代表であって,イギリス代表ではありません。イングランドとイギリスはどこが違うのでしょうか?
実は,日本人が「イギリス」と呼んでいる国は,正式な名称を「グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国(The United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)といいます。イングランド,ウェールズ,スコットランド,北アイルランドの4つの国が1人の王(現在は女王のエリザベス2世)のもとに結びついた「連合王国」なのです。ここで,連合王国の歴史を簡単にまとめてみましょう。

  • 1066年……北フランスのノルマンディー公がイングランドを征服して,ウィリアム1世となる(イギリス王室のはじまり)。
  • 1282年……ウェールズがイングランドに征服される。
  • 1536年……ウェールズがイングランドに併合(へいごう)される。
  • 1603年……スコットランド王ジェームズ6世が,イングランド王ジェームズ1世として即位。イングランドとスコットランドが同君王国となる。
  • 1707年……イングランドとスコットランドが合同して,「グレートブリテン連合王国」が成立。
  • 1801年……アイルランドが合併されて,「グレートブリテンおよびアイルランド連合王国」が成立。
  • 1922年……イギリス帝国内の自治領として,アイルランド自由国が成立。北アイルランドは連合王国にととどまる。
  • 1949年……アイルランドが独立。連合王国は「グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国」となる。

さて,イングランド人が初めて日本に来たのは,連合王国が成立する前の安土・桃山時代(16世紀後半)のことでした。日本人は,ポルトガル語の発音に基づいて,イングランドのことを「イギリス」と呼びました。江戸時代になると,鎖国が完成して,「イギリス」は日本に来なくなりました。その間に連合王国が成立したわけです。江戸時代の終わり頃に連合王国が日本に来るようになると,日本人はその連合王国のことも「イギリス」と呼ぶようになりました。
つまり,もともとは「イギリス」=「イングランド」だったものが,「イギリス」=「連合王国」に変わっていったのです。このため,現在では,連合王国全体を指すときに「イギリス」と呼び,イングランドだけを指すときはそのまま「イングランド」とすることが多くなっています。

イギリスはサッカー発祥の地であることもあって,イングランド,スコットランド,ウェールズ,北アイルランドがそれぞれ代表を出すことが認められています。ベッカム選手がイングランド代表であってイギリス代表でないのはそのためです。(そもそもサッカーではイギリス代表チームというものが存在しないのです。)


右の図から分かるように,イギリスの国旗(ユニオン・ジャックと呼ばれます)は,イングランド,スコットランド,アイルランドの3つの旗を重ね合わせたものになっています。これからも,イギリスが連合王国であることが分かりますね。なお,ウェールズの旗が加わっていないのは,ユニオン・ジャックができるはるか前に,イングランドに併合されてしまったからです。